糖尿病の治療はインスリンというホルモンの分泌能や、インスリンに対する抵抗性を評価して、病態に合わせて治療を行います。糖尿病の治療は、血糖値を正常に近づけることですが、血糖を下げる最大の目的は、糖尿病の合併症予防にあります。糖尿病はかなりの高血糖になるまで症状は殆どありません。このため治療を継続させるためには、治療の目的を理解し、定期的に検査を受けて現状を把握することが、治療を中断しないために重要になってきます。
糖尿病の治療の基本は、食事療法と運動療法です。しかし、それらで改善しにくい人には、薬の治療をお勧めします。ここ10年で糖尿病の治療薬は目覚ましい進歩を遂げています。内服薬から注射療法など幅広い薬が揃っており病態と患者さんの希望も考慮して薬を選択することができるようになっています。ただし糖尿病を発症して長いためにインスリンの分泌が低下している人や、高血糖が持続しているため糖毒性状態(血糖上昇に反応したインスリン分泌機能が低下している状態)にある方など、内服薬での血糖コントロールが難しい患者さんにはインスリン療法などの注射治療も外来で導入することができます。「インスリン療法は一生続けないといけない?」と質問される患者さんをよく見かけますが、インスリンを続けるかどうかは、その患者さんのインスリン分泌能に左右されているので、インスリンを使用したから止められなくなるということはありません。
先に説明しましたが、糖尿病の治療の最大の目的は合併症の予防です。糖尿病の合併症の予防のためには合併症の現状を良くしることが大切になってきます。糖尿病の合併症には、大きく分けて糖尿病に固有の合併症の「最小血管障害」と糖尿病でなくても起こる「大血管障害」とに分類されます。最小血管障害には糖尿病末梢神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症があります。また大血管障害には心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症があります。これらの合併症の本体は動脈硬化です。動脈硬化のリスクは糖尿病以外にも高血圧や脂質異常症や喫煙、年齢も関係します。このため糖尿病の治療以外の疾患も含めた総合的な管理が大切になります。当院では、末梢神経障害には神経学的な診察で評価を行ったり、尿検査にて腎症の評価を行います。大血管の動脈硬化の評価には頸動脈エコーや脈波(ABI/CAVI)を行っています。